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Reminder / ToDo

泳ぐ炎

均斉のとれた帆布(はんぷ)のなかであばれていたわたしたちは
濡れた影にすがりつくかれらの呼び声をきいて
荊棘(いばら)に抱きしめられた敵の魂を驟雨のように浴びせかかる
わたしだけがここにいる

陽射しで力づよく(ふと)った果実(このみ)は溺死者の涙で腐り落ちながら
ひとつの種だけは暴かれずそこに眠る
金色の安らぎが如雨露(じょうろ)のように水をやり
わたしだけが海のなかで芽吹く祈りを信じている

甘い波濤がわれらの耳朶(じだ)を打ちつけながら
冷やしがたい心臓の熾火(おきび)が微笑みながら友の血管へ巡るのを感じる
見出した心から喜びと哀しみを腑分けしていく
わたしたちだけは息を継いでいる

松明のバトンをお守りのように手渡され
けして消させまいと泳ぎながらその白い(かいな)を捧げる
泳ぐ炎は暗く輝いた鴉の群れた空をことごとく透かしはじめ
わたしたちは生きている