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備忘録

私の統合失調症

 2020年5月はじめ、私は統合失調症と診断され精神病院に入院した。今回はその経緯について詳しく書いていこうと思う。当時正気を失っていたのもあり1年も経ったことなのではっきりと思い出せない部分もあると思うが、そのあたりも含めて頑張って書いていくつもりではある。

前兆

 統合失調症は、自分自身が病気であるという自覚(病識)が乏しい。幻覚や妄想のような症状が起きていても、それが病気による症状だということに自分で気づくことができない。私も例に漏れずそのケースだった。幻聴や妄想がひどい当時でさえ、「自分は病気ではない、ただ調子が悪いだけ」だと思っていたのだ。いつからその病気がはじまったのか、実のところよくわかっていない。しかし、いま思い返してみれば、統合失調症の前兆とも呼べる身体の異変は2018年頃からいくつかあった。

 まず顕著なのが不眠だった。どうしても夜眠れない、夜中になるほど目が冴えるなどの傾向が毎日出てくるようになった。当時は無理矢理にでも寝ようとしていたが、それでも何度か目が覚めたり、いっそ開き直って朝まで起きていたりと、よく眠れているとは言えない有様だった。当時は睡眠薬を飲んでいなかったが、飲んでいたとして不眠が解決していたかどうか怪しい。ただ不眠だけだとそれだけで統合失調症の前兆だとはもちろんわかるわけがなかったので、当時はそういうものだと思って放置していた。

 次に頻発するのが原因不明の頭痛だった。最初は普通の軽い頭痛だったが、数ヶ月経った頃からズキズキ痛むようになり、さらには頭が割れんばかりの痛みで立っていられないことがあった。頭痛の頻度はまちまちだったが、そのせいで痛みが引くまで横になって動けないときがままあった。当時は痛みに耐えながら頭痛の原因をいろいろ調べていたりしたが、片頭痛の特徴とは違うし、だからといって普通の頭痛の痛みではなかったので、打つ手なしのまま横になって呻くことしかできなかった。

急性期症状

 2020年3月頃、私は徐々におかしくなっていった。

 決定打となったのが3月20日だった。そのとき私は表明という名のブログ記事を書いたのだが(現在は削除済み)、そもそもあれを書いたきっかけといえば、頭の中で不特定多数の人間が自分に対する噂話をしているのを振り払うためだった。何を言っているのかこのままだとわかりにくいと思うので噛み砕いて説明すると、不特定多数の人間の中心は、ネットサーフィンなどで私が見ていたTwitterのアカウントのことだ。不特定多数なので、傾向、方向、性質などをひとつにしないバラバラの集まりとしての多数だ。それらのアカウントのツイートを見ているうちに、まるでツイートのひとつひとつが自分に対する噂話や邪推のように思えてきて、その想念を頭から振り払えなかった。振り払えずに頭の中でぐるぐるとうるさく渦巻いていたので、無理矢理にでも振り払うための苦し紛れの策が文章を書くことだった。

不眠でずっと眠れず、現実と虚構の区別も曖昧に痺れ、そのせいでクソデカい悪意/陰謀/被害妄想/思考盗聴/視線集中/印象操作/罪悪感/分裂感と戦ってた気がするけど全部気のせいになった 全部""力""で優しくなってしまった 優しさは力なので いくらでも優しくできる気がする 穏やかで心地いい
https://twitter.com/516kmay/status/1241733333773475841

 3月下旬からすでにおかしくなっていたが、4月下旬になると私は完全におかしくなり、自分をコントロールできなくなっていた。私は完全に混乱していた。妄想と現実の境目があやふやになり、自分の思考が世界や他者へ漏洩し続ける感覚に陥っていた。思考が盗聴されるような感覚を本当に覚えたのもこの時期で、当時の私は盗聴を防ぐために自分の部屋の盗聴器が仕込まれているであろう時計の電池をすべて抜いたり、盗聴されていることを逆に利用して独り言や自前の暗証コードを呟いていた。自分にとって示唆的な歌詞を聞き取るために音楽を大音量でかけたり、裸足で近所の公園や池に赴くことが多くなった。ジャングルジムを登ったり降りたりすることで、私は日本政府にいる公安秘密組織に監視されている事実と、中国で作られたゲームアプリを通して中国のある組織に監視されている事実と、それらをなんとかしてくれるであろう「聖なる存在」にとっくに気づいている事実などを頭の中で比べたり考えたりしながら、ときどき公園を行き帰りしていた。

 このあたりで私の異変に気づいた親が私を市民病院へ連れて行くのだが、ほとんど効果がなかった。受診して薬はもらったものの、それでも私が自分のことを正常だと思っているから、薬を飲もうとしないのだ。当然私の状態はますます悪化していった。

 私の世界は急速に壊れ、コントロールできない妄想によって筆舌に尽くしがたいほど変容していった。当時の私の世界を支離滅裂な妄想のまま具体的に述べるとするなら、まず人類は自分の老いを完全にコントロールし、子どもから老人まで姿を変えることができるようになった。老いを自分でコントロールできるなら当然その先にある死をもコントロールできるようになり、人類にとっての老化による死は任意制になった。さらに人類は全体的に享楽的になり、性に奔放になった。自分の性自認性的指向に関係なく他者とセックスするようになり、さらには自分の子どもやきょうだいや両親なども性別関係なく乱交や近親相姦をするようになった。そのせいで、人類は生まれながら精神的な選択的両性を得ることができるようになったが、代わりに自分の身体的な性は個人の所有権ではなくなった。

 どういうことかというと、たとえば生物学的男性Mと生物学的女性Fがいるとして、その二人がセックスをすると、二人の精神が入れ替わる。つまり本来のMはFの身体、本来のFはMの身体に入れ替わる。これは同性の場合でも同じように適用される。つまりセックスをするとお互いの精神が入れ替わることになる。このルールが知らずしらず世界に適用されたために、人々は大混乱に陥った。それによってさらに人々は自分の求める身体になるために他人とのセックスを強く求めるようになり、ついには自分の身体が「オリジナル」でないことに何の違和感も持たなくなっていた。私は自分の身体を取られまいと部屋に引きこもり、Twitterやネットニュースなどで必死に周囲や世界の動向を探っていた。

いまだから白状するけど本当に被害妄想激しかったときは(リアルで)周りの人間が悪意の塊だと感じてしまいがちだったから正気を保てられていた自分をめちゃくちゃ褒めていた
https://twitter.com/516kmay/status/1253658143902466049
神はジョークで死んだ 神話もジョークで死んだ 超人と子どもと夢はジョークで覚醒めた ジョークが好きな私は表明と遺書を書いてタイムスリップでキリストよりも先に死んだ 大アルカナの吊された男はジョークで自殺した もちろんこれはジョーク ジョーク ジョーク ダンス ダンス ダンス!
https://twitter.com/516kmay/status/1254742061619638273
実はみなさんの罪悪感が私の生ける屍の身体性を取り戻すのにとても助かっています みなさんの見ている〈世界のあるがまま〉を語ることでもっと私を助けていただけると幸いです もちろんこれは悪意のないジョークです 大切な話だから秘密にしていました 許してくださいね
https://twitter.com/516kmay/status/1254744632937738240
入院、そして退院

 私はそんな世界に耐えかねていたのと、壊れた世界を救う天啓を突然得たことで居ても立ってもいられなくなり、夜に近所の公園や池へ飛び出した。そこで大声を出して叫びまわっていたことで、見回りに来ていた警官に呼び止められ、事情を聴取するために私は警察署まで連れて行かれることになった。警察と話していても要領を得ない回答ばかりしていたので、しばらくしてからまた別の車で病院に連れて行かれた。病院で私の診察の番が来たとき、そこで待っていた医師からいくつか質問された。

医師「妄想があったりする?」

私「いいえ」

医師「たとえば幻聴が聞こえたりは?」

私「いいえ(聞こえていたが自分の身を守るためいいえと答えた)」

 質問に答え終わった私は看護師に簡易ベッドへ寝かされ、目が覚めたときは見知らぬ個室にいた。そこが精神病院だと知るにはもっとずっと後の話になる。

 以上が私が統合失調症と診断され入院した際の経緯である。入院したのは5月はじめで、それから4ヶ月近く経った8月26日まで、私はその病院で入院していた。病院ではちゃんと薬を飲まされていたため、しばらくして精神は安定してきた(2日ほど身体拘束はされたが)。退院までずっと閉鎖病棟にいたため、出入り口が常時施錠された状態で自由に出入りできずスマホも持ち込めなかった。病院内は本当に退屈で苦痛だったため、もうあそこには二度と戻りたくない……。

 現在、発病してから1年ほど経ち快復に至り、特に再発もなく薬も続けられているためそのまとめとして書いた。もしも何かの役に立つのなら幸いである。